長谷工の
法政跡地マンションの概要が明らかになってくるに連れて、その周辺環境への深刻な影響がますます懸念される状況となっています。特に日照、風害、電波障害などの問題に加えて、敷地東側に隣接する住民の方々を中心に巨大建築物が周囲に与える威圧感は、決して看過できない重大な問題であることは、皆様ご承知の通りです。
今日は、そんな高層建築物の高さ規制の是非について、経済的なアプローチで分析したレポートを国土交通省が発表していましたので、かいつまんでご紹介したいと思います(レポートの詳細は
こちら、概要は
こちらを参照)。
レポートの概要については、日経BP社のKEN-Platzというサイト内の6月21日付の記事
「【景観】建物の高さ制限のメリット・デメリットを貨幣換算、国交省が分析手法を公表」にまとめられています。以下、記事の内容をご紹介すると、
高さ規制がどの程度のプラス・マイナスの影響を与えるか、貨幣換算して分析する――。中高層マンションなどの建設に伴う建築紛争の予防措置として、高さ規制などの景観規制を導入する自治体が相次いでいる。景観規制の導入は調和の取れた街並みの形成につながるなどのメリットがある半面、建築の自由度が狭まるなどデメリットもある。国土交通省は、こうした影響を数値化して評価する手法をまとめ、6月15日に公表した。
公表したのは(1)通りや街区などの景観を対象に、建築物の形態や意匠、色彩などの制限によって生じる価値を分析する方法を記した「景観形成の経済的価値分析に関する検討報告書」、(2)個々の建築敷地を対象に、建築物の高さ制限がもたらす価値と損失を分析する手法を記した「建築物に対する景観規制の効果の分析手法について」――の二つの報告書だ。それぞれ具体的な分析例を示すとともに、手順や注意事項などを記した。「評価手法には限界がある。自治体が景観規制の導入について検討する際の一つの判断材料として役立ててほしい」(国交省市街地建築課)。
景観規制を巡っては、政府の規制改革・民間開放推進会議が、景観規制の導入が容積率や建築物の高さなど都市空間を過度に抑制する恐れがあるとして、規制導入に伴う利益と損失を分析する手法の検討を課題に挙げていた。これを踏まえ、国交省は学識経験者で構成する委員会を設置し、研究を進めてきた。
というものです。ここから、高さ制限によるメリット・デメリットを数値化しようという試みであること、
規制改革・民間開放推進会議の流れの中から出てきたものであること、が読み取れます。
実は、この点において、このレポートをご紹介するかどうかについては躊躇しました。と言いますのも、小泉政権の時に発足した
規制改革・民間開放推進会議(旧・総合規制改革会議)は、規制緩和の名を借りた一部民間事業者への便宜供与の色彩が非常に濃いからで、現にこのレポートの元となった同会議の住宅・土地ワーキンググループの専門委員に名を連ねている
福井秀夫・政策研究大学院大学教授(本レポートを発表した研究会の座長でもある)は、一連の規制緩和の流れの中で、徹底的に民間側におもねる発言を繰り広げていることが判明しています(この辺の話は今回の話題から逸れるので割愛しますが、ご興味をお持ちの方は是非とも島本慈子著「住宅喪失」をお読み下さい。この福井委員が、森委員(森ビル社長)と法制審議会・建物区分所有法部会に乗り込んで行くシーンは必読です)。
にも関わらず、このレポートをご紹介するのは、それ以上にこのレポートの示唆するところに有益な部分があると判断したからです。レポート自体はかなり専門的な内容で、一般の方にお読みいただくにはちょっとつらい内容ですが、要は、絶対高さ制限の効果を、便益(=高さ規制による周辺地価の下落の防止)と費用(=高さ制限による対象地の収益還元地価の下落額)を比較した差額として表現し、プラスなら高さ制限の効能あり、マイナスなら高さ制限の効能なしと判断するものです。

(クリックで拡大)
同レポートの結論をかいつまんでご紹介すると、小規模の敷地では高さ制限の経済的な導入意義は認められるが、大規模な敷地では規制導入の便益より費用が上回るため、導入の意義は(経済的な分析だけでは)認められないというものです。しかし、この結論はレポートを一読すればすぐ分かる通り、高層建築物の圧迫感による影響を意図的(?)に低く見せるため、東側と南側の空が遮られる部分の影響のみ考慮しているなど、(恣意的とまでは断定できないにせよ)便益を低く見せようとしているのではないかと思われる内容です。この辺り、先程の規制改革会議の「先に結論ありき」の影響を感じさせます。
しかし、ここで注目すべきは、この御用レポートですら、高さ24mを12〜18mに引き下げた影響をシミュレートしており、武蔵野市の検討している25mなどという高さ規制は検討の対象にしていないという事実、そして、
天空遮蔽率という明確な指標を元に地価の下落率を推計しているという事実です。おそらく、
法政跡地のように南北に長い敷地では、東側の
天空遮蔽率の数値は(本シミュレーションのように正方形の敷地と比較して)格段に大きくなりますし、結果的に地価の下落率も大きくなることが予想されます。武蔵野市は、何故
地区計画原案を住民に提示するに際して、このような明快なシミュレーションを提示しなかったのでしょうか? 能力がないから? それはちょっと悲しすぎる話です。
明らかに、
長谷工が得意とするような地域環境を無視する大規模開発は、既に時代遅れとなりつつあります。後は、事業者自体のモラル(=良心)と地方自治体の地域環境保全に対する意識次第です。前者におよそ期待できないことはこれまで何度も指摘してきた通りです。後は、武蔵野市の地域環境に対する意識が問われています。本レポートを参照にするかどうかはともかく、もっと住民側が納得できるような論理的な
地区計画原案の説明を期待して止みません。
テーマ:住宅・不動産 - ジャンル:ライフ