しかし、地区計画が法政跡地問題の最終地点ではありません。目的はあくまでも地域にそぐわない高層マンション建築を阻止することにあります(建たないに越したことはありませんが、マンション建築そのものを阻止することが目的ではありません)。今後も、建築物が少しでも地域に調和するものになるよう、最善の努力を尽くしていくべきと考えます。
その観点から、最近明らかにマンション建築に対する空気が変わりつつあります。かつては、マンションデベロッパーの脱法行為も黙認状態だったのが、最近は開かずの扉と言われた建築審査会で建築確認を取り消される事例が出てきていることは、以前に川越市のタカラレーベンの例でご紹介しました。また、マンションデベロッパーに対する損害賠償請求も認められる事例は少なかったのが、あまりのモラルのなさに、腰の重い裁判官すらようやく請求を認容する事例が増えてきています(それでも、どちらも庶民感覚からすればまだまだ不十分ですが)。今回は、そのような事例を2件、ご紹介したいと思います(何れも最大手マンションデベロッパー・大京の事例です)。
先ずは、建築確認取消例から見ていきましょう。物件は、「ライオンズ中野ミッドサイト」。2年ほど前に建築審査会で建築確認を取り消され、工事が中断。最近になって設計を変更(8→5階建て)し、販売を再開したようです。建築確認取消の経緯は、平成17年10月4日付朝日新聞に詳しく載っています。以下、ご紹介します。
マンション前だけ道広げ「建築確認」 建築審が「違法」裁決 中野区 /東京都
中野区内で建設中の地上8階地下1階建てのマンションをめぐり、付近住民が「建築は違法」として区建築審査会に審査請求し、審査会は建築確認を取り消す裁決をしたことがわかった。都建築安全条例は隣接する道路の幅で建物の規模を制限しているが、このマンションは予定地に接する部分だけを拡幅して建築確認を受けていた。一部分だけ膨らむため「へび玉」と呼ばれ、同区内ではこうした手法が慣例化していたという。裁決により、建設計画は宙に浮いた形だ。
問題とされたマンションは、中野3丁目で大手不動産会社が計画。延べ床面積6746平方メートル、高さ24メートルで、79世帯が居住できる予定だった。これが「条例違反」だとして、上智大名誉教授の蝋山道雄さんら付近住民でつくる「桃園まちづくりを考える会」が2月に審査請求した。
同条例4条2項では、防災上から「延べ面積が3千平方メートルを超え、高さが15メートルを超える建築物は、幅員6メートル以上の道路に接していなければならない」と定めている。
審査会の裁決文によると、このマンションの前面に接する道路は4メートル弱~5メートル強。同社が建設予定地を削る形で道路を拡幅し、マンションに接する部分だけを6メートルに広げた。その上で04年12月、国土交通省が指定する民間の確認検査機関に建築確認を受け、着工した。
審査請求を受けた審査会は今年7月13日、「道路の敷地に接する部分をのぞき、道路自体は幅員6メートルに達している部分が全く見あたらない」「4条2項の要請する火災時の避難、消火活動や緊急車両の円滑な進入条件が確保されているとは到底いえない」として条例違反と判断した。
工事は中断され、同社は8月、裁決結果を不服として国交省に再審査請求をした。
同社によると、これまで同区内では、同様の手法で、同社も含め10件ほどのマンション建築が許可されてきたという。そのため「これまで行政の方針に従ってきた経緯から裁決は全く予想外」と当惑する。
建設予定地は、農林水産省の宿舎跡地。同社は入札の際、区に建築条件などを聞いた。同区は同社計画が条例の条件を満たすと判断したという。
同社は「もし区がそのような判断をしていなければ、そもそも入札に応じないか、応札価格を大幅に下げていたはずだ」と指摘する。
一方、同区の担当者は「建築確認は民間機関が行った。区はあくまで相談に乗っただけ」と説明。だが、同様のケースで区が建築確認をした例もあるとし、「今後は区のスタンスも変えざるを得ない」と話す。
この問題に関連し、同区は他の22区に調査した。同様の条件で「6メートル道路として扱う」とする区はなく、15区は「6メートル道路として扱わない」とした。2区は「具体的な建築計画の内容により総合的に判断する」とし、その他が5区あったという。
都建築企画課は「以前は他の自治体でも、同様の手法で建築を許可していたが、最近は審査会の判断が厳しくなった。(中野区の手法は)本来の条例の趣旨からすればおかしい。条例を守って頂きたい」としている。
「裁決結果を不服として国交省に再審査請求をした」そうですが、その結果が計画変更ですか… 本当に不服なら、行政訴訟にまで持ち込めば良さそうなもんですが、それは何かまずいんですかね? 因みに、中野区建築審査会の裁決内容はこちらで見ることができます。
高値で仕込んだ物件を、最近のミニバブルの中でどさくさまぎれに処分しようとするという、非常にセコい魂胆が見え見えです。しかも、工事中断中の2年近く雨ざらしとなっていた物件ですよ。普通のモラルある人は、こんなもの売ったりしないと思いますがね…
さて、もう1件の損害賠償事件です。こちらも、先ずは4月21日付東京新聞の記事をご紹介します。
大京に2400万賠償命令 江東区のマンション 「夢奪われた」認定
東京都江東区のマンション住民五十六人(四十二戸)と入居法人二社が「屋上庭園や水の流れるエントランスホールが計画と異なり、夢を壊された」などとして、販売元の大京(東京)に約二億七千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は二十日、大京に計約二千四百万円の支払いを命じた。
日下部克通裁判官は「住民は高級感や安らぎが欠けていると感じ、夢を奪われ、失望していると認められる」と判断。改修工事の騒音被害なども認めた。
判決によると、マンションは一九九八年に完成し、四十五戸が入居。パンフレットでは、空中庭園は植物が多く、入り口に段差がなかったが、実際は植物は少なく、段差があった。
もう少し詳しい解説が、日経BP社の不動産情報サイト「ケンプラッツ」内の記事「【訴訟】中庭の改修などでマンションの高級感が低下、分譲した大京に慰謝料支払いを命じる判決」にあります。それによると、「竣工時の中庭には池と水流があった」が、「98年4月、中庭の地下の駐車場で漏水が見つかり、大京側は対策として中庭から水流をなくすなどの改修工事を施した。東京地裁はこの工事について、改修で中庭の水流がなくなり、マンションの高級感が低下したことで、住民は精神的損害を受けたと認定した」とのことです。更に、「東京地裁は屋上庭園についても、発売時のパンフレットと比べて植栽が少なく、段差があったために、住民を失望させたと判断した」が、「住民側の主張のうち、中庭の改修などがマンションの資産価値を低下させたことや、住戸の部材の一部(ボードとビス)が竣工図通りではないことによる損害は認めなかった」そうで、「住民側は判決に満足しておらず、5月7日に控訴した」そうです。
ケンプラッツには、同マンションの管理組合理事長のインタビュー「【訴訟】中庭改修マンションの管理組合理事長が心境を語る、『不良品を買った失望感をわかってほしい』」も掲載されています。「販売価格はこの辺りの相場より高額だったが、それでも買った。ユニークな中庭が購入意欲をそそったことは間違いない。大京の営業マンも中庭をセールスポイントの一つにしていたと記憶している」という声は同情に値します。このような販売方法がまかり通れば、いくらでもアピールポイントを後から撤回できることになってしまいますから。マンションデベロッパーは、真剣に自らの行動を省みる必要性がありそうですね。残念ながら、その兆候は一向に見られませんが…
《追記》本日の記事を書いてから気付きましたが、ご紹介した事例についてコメント欄でご紹介下さっている方がいらっしゃいますね。4/25付のコメントですが、当初は違う内容だったと記憶しています。コメントの内容を後日編集されても、当方では逐一フォローしておりません(新規コメントは通知が来るので分かります)ので、せっかく情報をご紹介いただいても生かすことができません。できれば、新規コメントでお願いします。


